美容師免許を持ちながら、結婚・出産・育児・体調不良などさまざまな理由で現場を離れていた方が、フリーランス美容師という働き方に興味を持つケースが増えています。サロンに雇用されるのではなく、自分の裁量でスケジュールや活動内容を決められるフリーランスは、ブランクからの復職スタイルとして魅力的に映ることも多いでしょう。
ただ、フリーランスとして活動を始めると必ずついてまわるのが「確定申告」です。会社員のときは会社が税務手続きをしてくれていたため、「何から始めればいいかわからない」「難しそうで不安」と感じる方は少なくありません。
この記事では、美容師フリーランスとして活動を始めた・始めようとしている方に向けて、確定申告の基本と「最初にやること」をわかりやすく解説します。難しく考えすぎず、一つひとつ順番に理解していけば、確定申告は必ずできるようになります。
フリーランス美容師と確定申告の基本的な関係
まず前提として、フリーランス美容師が確定申告をしなければならない理由を確認しておきましょう。
会社員として働く場合、雇用主(サロン)が給与から所得税を差し引いて納税してくれます(源泉徴収)。しかしフリーランスは「個人事業主」という立場になるため、自分で1年間の収入と経費を計算し、税務署に申告・納税しなければなりません。これが確定申告です。
確定申告が必要になるのは、大まかに言うと「年間の所得(収入-経費)が48万円を超えた場合」が一つの目安です。ただし副業的にサロンへの業務委託で収入を得ている場合など、状況によって条件が変わるため、自分の状況に当てはめて確認することが大切です。
ポイント
フリーランス美容師として活動すると、自動的に「個人事業主」の立場になります。収入が発生した年の翌年2月16日〜3月15日が確定申告の受付期間です。初年度から記録をきちんとつけておくことが、申告をスムーズにする最大のコツです。
最初にやること①:開業届を税務署に提出する
フリーランスとして美容師活動を始めたら、まず真っ先にやるべきことは「開業届(個人事業の開業・廃業等届出書)」を税務署に提出することです。開業してから1か月以内に提出するのが原則とされています。
「届出をしないとどうなるの?」と心配する方もいますが、開業届の提出自体に罰則はありません。ただし、後述する「青色申告」を選択するためには、開業届の提出が前提条件になります。節税メリットを受けるためにも、早めに動くのが得策です。
開業届の提出方法
- 税務署の窓口に直接持参する
- 税務署に郵送する
- e-Tax(国税電子申告・納税システム)でオンライン提出する
- マイナポータルと連携して提出する
書類はA4用紙1枚で、国税庁のウェブサイトからダウンロードできます。記入項目は「氏名・住所・職業・事業の概要・開業日」などシンプルなものが中心です。「職業」の欄には「美容師」と記載し、「事業の概要」には「美容業務(ヘアカット・カラー等)」などと書けばOKです。
開業届提出の基本ステップ
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書類をダウンロード・入手する
国税庁ウェブサイト(https://www.nta.go.jp)から「個人事業の開業・廃業等届出書」を入手します。e-Taxを使う場合はソフト上で直接入力できます。
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必要事項を記入する
氏名・住所・マイナンバー・職業・開業日・事業の概要などを記入します。「職業」は「美容師」、「事業の概要」は「ヘアカット・カラーリング等の美容業務」などと記載しましょう。
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税務署に提出する
住所地を管轄する税務署の窓口・郵送・e-Taxのいずれかで提出します。控えを1部受け取っておくと、後々の手続きで役立ちます。
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青色申告承認申請書も同時に提出する
節税効果のある青色申告を選ぶ場合は、開業届と同時に「青色申告承認申請書」も提出しておくと効率的です。提出期限は開業日から2か月以内です。
最初にやること②:白色申告か青色申告かを選ぶ
確定申告には「白色申告」と「青色申告」の2種類があります。フリーランス美容師として長く活動するなら、この選択が節税に大きく影響します。
どちらを選ぶかによって、帳簿の書き方や節税の幅が変わってきます。以下で2つを比較してみましょう。
白色申告
- 事前申請が不要ですぐ始められる
- 帳簿は簡易的でOK
- 青色申告特別控除(最大65万円)は使えない
- 赤字の繰り越しはできない
- 記帳の手間は比較的少ない
青色申告
- 事前に「青色申告承認申請書」の提出が必要
- 複式簿記による記帳が原則(65万円控除の場合)
- 最大65万円の特別控除が受けられる
- 赤字を翌年以降3年間繰り越せる
- 会計ソフトを使えば手間を大幅に削減できる
青色申告の最大のメリットは「青色申告特別控除」です。e-Taxで申告する場合、最大65万円を所得から差し引くことができます。たとえば年間所得が200万円のフリーランス美容師の場合、この控除があるだけで課税対象が135万円になり、税負担を大幅に抑えられます。
「複式簿記が難しそう…」という不安もあるかもしれませんが、現在はfreee・マネーフォワードクラウド・弥生会計などのクラウド会計ソフトを使えば、日々の売上・経費を入力するだけで帳簿が自動作成されます。初心者でも十分に青色申告を選択できる環境が整っています。
最初にやること③:経費の仕分けを始める
確定申告で最も重要な作業の一つが「経費の管理」です。経費として計上できる費用が多ければ多いほど所得が減り、納める税金を抑えることができます。
フリーランス美容師が経費として計上できる主な費用には次のようなものがあります。
- 材料費・消耗品費:カラー剤・シャンプー・トリートメントなど業務で使う薬剤・備品
- 道具・器具備品:ハサミ・コーム・ドライヤーなどの美容道具
- 交通費:出張訪問や勉強会・セミナーへの移動費
- 通信費:仕事用のスマートフォン代・インターネット料金(按分が必要な場合あり)
- 広告宣伝費:SNS広告・名刺・ホームページ制作費など
- 研修・セミナー費:技術向上のための講習会・勉強会参加費
- 書籍・資料費:美容・ヘアスタイルに関連する専門書・雑誌
- 家賃の一部(按分):自宅の一部を仕事場として使っている場合
ただし、プライベートと仕事の両方に使うものは「按分(あんぶん)」といって、仕事に使う割合だけを経費として計上します。たとえばスマートフォンを仕事で50%使っているなら、料金の50%を経費にする、といった考え方です。
注意したいこと
経費として計上するためには、領収書・レシートなどの証拠書類が必要です。紙のレシートはスマートフォンで撮影してクラウドに保存するか、ファイルに綴じておきましょう。電子取引のデータ(オンライン購入の明細など)は電子データのまま保存することが原則となっています(電子帳簿保存法)。
経費管理をラクにする3つの習慣
- 仕事用とプライベート用で銀行口座・クレジットカードを分ける
- 領収書・レシートはその日のうちにスマートフォンで撮影して保存する
- 月1回は会計ソフトに入力する日を決めて習慣化する
この3つを徹底するだけで、申告時期の「レシートの山との格闘」が大幅に減ります。フリーランス美容師として長く続けるなら、最初から良い習慣を身につけることが何より大切です。
最初にやること④:社会保険・国民健康保険の手続きを確認する
確定申告の話とあわせて、忘れずに確認しておきたいのが社会保険の手続きです。フリーランス(個人事業主)になると、会社員時代に加入していた「健康保険(社会保険)」から脱退し、「国民健康保険」に加入することになります。年金も「国民年金」への切り替えが必要です。
これらは確定申告とは別の手続きですが、支払った国民健康保険料・国民年金保険料は確定申告で「社会保険料控除」として所得から差し引くことができます。保険料の支払い証明書(控除証明書)は必ず保管しておきましょう。
フリーランス美容師が確認すべき主な公的手続き
- 国民健康保険への加入:退職・雇用関係終了から14日以内に住んでいる市区町村の窓口で手続き
- 国民年金への切り替え:同じく市区町村またはねんきんネットで手続き
- 国民年金基金・iDeCo(個人型確定拠出年金)の検討:老後の備えとして加入も可能。掛け金は全額所得控除の対象になる
健康保険については、退職後2年間は以前の職場の健康保険を「任意継続」できる制度もあります。保険料を比較した上でどちらが負担が少ないか確認してみましょう。
最初にやること⑤:確定申告に必要な書類・ツールを準備する
確定申告の時期(翌年2月16日〜3月15日)を慌てずに迎えるために、普段から準備しておくべき書類・ツールを整理しておきましょう。
確定申告に備えて準備しておくもの
- 開業届の控え(提出済みの場合)
- 青色申告承認申請書の控え
- 売上の記録(クライアントごとの請求書・領収書のコピー)
- 経費の領収書・レシート(業務委託先からの支払明細を含む)
- 国民健康保険料・国民年金の控除証明書または支払記録
- iDeCoや生命保険の控除証明書(加入している場合)
- マイナンバーカードまたは通知カード+身分証明書
- クラウド会計ソフトのアカウント(freee・マネーフォワード等)
- e-Tax利用のためのマイナンバーカードとICカードリーダー
特に請求書の発行・管理は、フリーランス美容師として業務委託やプライベートサロン運営をするうえで欠かせません。クラウド会計ソフトには請求書作成機能も付いているものが多く、売上管理と確定申告書類の作成を一元化できるので便利です。
インボイス制度(適格請求書)にも注意を
2023年10月から始まった「インボイス制度(適格請求書等保存方式)」により、取引先(業務委託先サロンなど)から「適格請求書(インボイス)」の発行を求められるケースが生じています。インボイスを発行するには「適格請求書発行事業者」の登録が必要で、登録すると消費税の申告・納付義務が発生します。
ブランクからの復職でフリーランスを始める場合、最初は免税事業者(年間売上1,000万円以下)であることが多いため、すぐに登録が必要とは限りません。ただし、業務委託先から登録を求められる場合もありますので、契約前に確認しておくと安心です。
まとめ:フリーランス美容師の確定申告、最初の一歩は「記録」から
フリーランス美容師として活動を始めると、技術の習熟だけでなく「税務・経理」という新たなスキルも必要になります。最初は難しく感じるかもしれませんが、やるべきことは順番が決まっていますし、ツールや制度のサポートも充実しています。
この記事でご紹介した「最初にやること」をおさらいすると、次のとおりです。
- ①開業届を税務署に提出する(青色申告承認申請書も同時に)
- ②青色申告か白色申告かを選ぶ(節税面では青色申告がおすすめ)
- ③経費の仕分けを始める(領収書保管・口座分離を習慣に)
- ④社会保険・国民健康保険の手続きを確認する
- ⑤確定申告に必要な書類・ツールを準備する
最も大切なのは「最初から完璧を目指さないこと」です。記録を続け、わからないことは税務署の窓口や税理士に相談しながら、少しずつ慣れていけば大丈夫です。ブランクからの復職で不安を感じているあなたでも、一つひとつ着実にステップを踏んでいけば、フリーランス美容師としての第一歩を踏み出すことができます。
産後のブランクが6年あって、最初はフリーランスなんて自分には無理だと思っていました。でも開業届を出して、会計ソフトを使い始めたら「意外となんとかなる」と思えてきて。確定申告も最初は不安だったけど、税務署の相談会に行ったら丁寧に教えてもらえました。子どもの行事に合わせてスケジュールを組める今の働き方が、今の私には一番合っています。
30代・ブランク6年・業務委託サロンでフリーランス活動中
フリーランスとしての活動を始める前に、まずは自分に合ったサロンや業務委託先を見つけることも重要です。「美容師免許ワーク」では、ブランクからの復職を歓迎するサロンや業務委託・フリーランス向けの求人情報を掲載していますので、ぜひ一度チェックしてみてください。